2026年08月23日 労務・制度・法令対応
最低賃金の「答申」とは?栃木県1,125円改定を例に、決定までの5ステップを解説(Vol.39)
※本記事は2026年8月17日時点で確認できる情報に基づいています。最低賃金額は本記事執筆時点でまだ正式決定前の「答申」段階であり、今後の手続きにより変更される可能性があります。最新の確定情報は栃木労働局の公式発表でご確認ください。
栃木県の最低賃金、1,125円への引き上げが答申されました
2026年8月5日、栃木地方最低賃金審議会は、栃木県の最低賃金を現行の1,068円から57円引き上げ、時給1,125円とするよう栃木労働局長に答申しました。この57円という引き上げ幅は、現行方式となった2002年度以降で過去2番目の大きさです。
ただし、ここで押さえておきたいのは「答申=決定ではない」という点です。人事担当者としては、この後どのような手続きを経て正式な最低賃金になるのか、流れを理解しておくことが重要です。
最低賃金が決まるまでの5つのステップ
最低賃金の改定は、以下の順序で進みます。
ステップ1:中央最低賃金審議会による「目安」の答申
厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会が、全国の都道府県をA・B・Cの3ランクに分け、それぞれの引き上げ額の「目安」を示します。2026年度(令和8年度)は、Aランク54円・Bランク56円・Cランク56円という目安が答申されました。栃木県はBランクに区分されており、目安は56円でした。
ステップ2:都道府県労働局長から地方最低賃金審議会への「諮問」
中央の目安を受けて、各都道府県の労働局長が、その地域の地方最低賃金審議会に対して「今年度の最低賃金をどのように改定すべきか」を検討するよう依頼します。これが「諮問」です。
ステップ3:地方最低賃金審議会での審議
諮問を受けた地方最低賃金審議会は、労働者代表・使用者代表・公益委員(学識経験者など)の三者構成で審議を行います。必要に応じて専門部会を設置し、地域の経済実勢や賃金実態調査などを踏まえて具体的な引き上げ額を検討します。
栃木県の今回の審議では、労使双方の提示額の差が最終的に4円まで縮まったものの合意には至らず、公益委員が示した金額(目安の56円を1円上回る57円)を労使双方が受け入れる形で決着しました。
ステップ4:「答申」
審議の結論として、地方最低賃金審議会が労働局長に対して具体的な改定額を報告します。これが「答申」です。栃木県では2026年8月5日、栃木地方最低賃金審議会(藤井亮二会長)が、栃木労働局の中野知基局長に対して「57円引き上げ、1,125円」とする答申を行いました。今、私たちが目にしている「1,125円」というのは、この答申の段階の数字です。
ステップ5:異議申立て・決定・公示、そして発効
答申の後、一定期間、答申内容に対する異議申立てを受け付ける手続きが行われます。異議がない場合(あるいは異議が採用されない場合)、労働局長が正式に金額を決定し、官報などで公示します。栃木県の場合、この一連の手続きを経て、2026年10月1日から新しい最低賃金1,125円が発効する予定です。
なぜ目安の56円ではなく57円だったのか
栃木県の答申額は、中央最低賃金審議会が示した目安56円を1円上回りました。これは栃木県だけの特徴ではなく、群馬・埼玉・千葉・愛知など複数の県で同様に「目安を上回る答申」が見られた年です。
推測ですが、この背景には、全国的な物価上昇と、都道府県間の最低賃金格差を縮めたいという地方審議会側の意識があるのではないかと考えられます。栃木地方最低賃金審議会が公式にこの理由を明言しているわけではない点はご留意ください。目安どおりに決着しなかったという事実自体が、「最低賃金は毎年、目安以上に上がる可能性がある」という前提で人件費計画を立てる必要性を示しています。目安を基準に「今年はこれくらいだろう」と楽観的に見積もるのは、実務上はやや危険です。
「答申通りに決まらないこともあるのか」という疑問について
答申後は異議申立て期間があるため、理屈の上では答申額から変更される可能性はゼロではありません。ただし実務上、答申額がそのまま正式決定されるケースが大半です。したがって、人事担当者としては「10月1日に1,125円になる」ことを前提に準備を進めて差し支えありません。一方で、正式な決定・公示が出るまでは、就業規則や賃金規程の改定を対外的に確定事項として発表するタイミングには注意が必要です。
経営者と人事担当者が今しておくべきこと
10月1日の発効を前提に、以下を確認しておくことをおすすめします。
- 自社の従業員(パート・アルバイトを含む)に、現行1,068円を下回る、あるいは1,125円に近い時給で働いている人がいないか
- 最低賃金近傍の従業員だけでなく、その上の賃金レンジの従業員との差が縮みすぎていないか(賃金カーブの圧縮)
- 昇給・処遇改定のタイミングを10月1日の発効に合わせて検討する必要があるか
単年対応で終わらせないために
最低賃金は、ここ数年、毎年のように過去最大級・過去2番目級の引き上げが続いています。今回の栃木県の57円という上げ幅も、その流れの中にあります。つまり、今回だけ賃金テーブルを調整して終わり、というやり方では、来年も再来年も同じ作業に追われることになります。
中長期的には、最低賃金の上昇ペースを前提とした賃金テーブルの設計や、等級・評価制度そのものを「毎年の最低賃金改定に自動的に耐えられる仕組み」にしておくことが、実務負担の軽減にもつながります。
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次回は、同じく2026年10月に控えているもう一つの制度変化――社会保険の「106万円の壁」撤廃について、厚生労働省の公式情報をもとに整理します。
次回予告 8月29日(土)
「106万円の壁」撤廃は2026年10月? 企業規模要件との違いを整理する(Vol.40)
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