2026年08月29日 労務・制度・法令対応
「106万円の壁」撤廃は2026年10月? 企業規模要件との違いを整理する(Vol.40)
※本記事は2026年8月25日時点で確認できる情報に基づいています。制度の詳細は今後の運用状況により変更・追加の可能性があるため、最新情報は厚生労働省の公式発表でご確認ください。
2026年10月、社会保険の「106万円の壁」が変わります
前回、栃木県の最低賃金が57円引き上げの1,125円で答申され、10月1日に発効予定であることをお伝えしました。実は同じ2026年10月、もう一つ大きな制度変更が控えています。社会保険(厚生年金・健康保険)のいわゆる「106万円の壁」の撤廃です。
根拠となる法律は、令和7年6月13日に成立した年金制度改正法です。厚生労働省の公式ページによれば、今回の加入対象拡大のポイントは次の3つです。
①短時間労働者の企業規模要件を縮小・撤廃
②短時間労働者の賃金要件を撤廃
③個人事業所の適用対象を拡大
このうち①と②を混同して理解している方が実務上多いため、今回は分けて整理します。
そもそも「106万円の壁」とは何か
現行の社会保険制度では、正社員でない短時間労働者が社会保険に加入する条件の一つとして「月額賃金8.8万円以上(年収換算で約106万円)」という賃金要件があります。この金額を意識して労働時間を抑える、いわゆる「就業調整」が長年の課題とされてきました。
撤廃の「時期」は、実は条件付きで決められていた
多くの解説記事では「2026年10月に撤廃」と書かれていますが、厚生労働省の公式ページを確認すると、表現はやや異なります。撤廃の時期は「法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断する」とされており、特定の月が最初から確定していたわけではありません。
全国の最低賃金は、令和7年度(2025年10月改定分)の時点で全都道府県が1,016円を上回りました。この条件が満たされたことを根拠に、専門家の間では「2026年10月に賃金要件が撤廃される」という理解が広がっています。ただし、この「2026年10月」という具体的な月は、条件充足を踏まえた実務上の解釈であり、厚労省の一般向け解説ページ自体に明記された確定日として直接確認できたわけではない、という点は正確を期すために申し添えます。
もう一つの変更点「企業規模要件」は、全く別のスケジュールで進みます
ここが最も誤解されやすいポイントです。「106万円の壁」撤廃とは別に、社会保険の対象となる企業の規模要件(現行51人以上)も見直されますが、こちらは10年かけて段階的に縮小・撤廃するスケジュールが組まれています。厚生労働省の特設サイトが示す目安は次のとおりです。
- 51人以上:すでに加入対象
- 36〜50人:2027年10月
- 21〜35人:2029年10月
- 11〜20人:2032年10月
- 1〜10人:2035年10月
つまり、2026年10月の時点で新たに対象となるのは「すでに社会保険適用対象になっている51人以上の企業」の中の話であり、50人以下の企業は2026年10月時点ではまだ企業規模要件の対象外です。「うちは50人以下だから2026年10月から関係ある」という理解は、正確ではありません。
個人事業所への適用拡大も、静かに進んでいます
あわせて、個人事業所についても、常時5人以上を使用する場合は原則すべての業種が社会保険の適用対象に拡大されます(現行は法定17業種のみ)。ただし、2029年10月の施行時点で既に存在する事業所は当分の間対象外とされています。
新たに対象となる企業には、保険料負担の軽減措置もあります
厚生労働省は、企業規模要件の見直しなどにより新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者(標準報酬月額12.6万円以下)について、3年間、事業主の負担割合を増やして本人負担を軽減できる特例支援策を用意しています。対象は「従業員数50人以下の企業など」とされており、この措置自体は将来、企業規模要件の対象が広がった段階で活きてくる制度です。
経営者や人事担当者が今しておくべきこと
- 自社が「51人以上」かどうかを、厚生年金保険の被保険者数ベースで確認する
- 51人以上の場合、2026年10月以降、月収8.8万円未満で働いていた短時間労働者も加入対象になり得ることを前提に、対象者を洗い出す
- 50人以下の場合、2026年10月時点では直接の変更はないが、自社が何年に対象化されるかを厚労省の特設サイトで確認し、準備期間として逆算しておく
単年対応で終わらせないために
最低賃金と同様、社会保険の適用拡大も一度きりのイベントではなく、2035年に向けて段階的に進んでいく長期のプロセスです。今は対象外の企業であっても、いずれ必ず対象になる前提で、パート・アルバイト比率の高い職場ほど、早い段階から人件費シミュレーションと処遇制度の見直しに着手しておくことが、後になって慌てないための備えになります。
次回は、これまでの2本を踏まえ、企業規模別に「いつ・何が変わるか」を一枚のロードマップとして整理します。
次回予告 9 月4日(金)
最低賃金と社会保険拡大|企業規模別対応ロードマップ2026(Vol.41)
[author_box]