2026年05月30日 人事戦略・経営・外部活用
なぜ経営者仲間の「成功談」を真似してもうまくいかないのか?(Vol.25)
経営者仲間の成功談を真似してもうまくいかない理由は、組織の課題が「人・歴史・文化」によって異なるからです。他社で効果があった施策でも、自社の人員構成・風土・成長段階が違えば逆効果になります。組織改善は「正解のコピー」ではなく、自社固有の課題を診断することから始まります。
「うちの会社は、これで上手くいったよ」「○○してみたら良いんじゃない?」
地元のロータリークラブや商工会議所、同友会などの経営者仲間が集まる席で、先輩経営者からそんなアドバイスをもらい、自社でも早速試してみた。しかし、現場の雰囲気は良くなるどころか、むしろ冷え切ってしまった……。そんな苦い経験はありませんか?
他社の成功事例は、時に自社にとっての「毒」になります。本記事では、人事コンサルタントの視点から、経営者仲間の成功談を真似しても組織改善がうまくいかない根本的な理由と、自社に真に必要なアプローチを解説します。
1. 経営者仲間のアドバイスが「罠」になる3つの理由
経営者仲間は同じ苦しみを分かち合える最高の戦友です。しかし、彼らは他社の組織を解剖して治療する「ドクター(専門家)」ではありません。なぜ彼らの成功談が自社で機能しないのか、3つの構造的理由があります。
① 「業界」「職種」「規模」で人の動機づけは180度違う
例えばインセンティブ(歩合給)を倍にして営業マンが劇的に動いた不動産会社の事例を、職人気質の強い製造業や、チームワーク重視の事務職にそのまま適用したらどうなるでしょうか?「お金さえ出せば動くだろう」という短絡的な施策は、かえって現場の不信感を煽り、優秀な人材の離職を招きます。
② 「社長のカリスマ性」という隠れた前提条件
成功談を語る経営者自身のキャラクター(個性、創業期からの信頼関係)が前提にあって初めて成り立つ施策が数多くあります。仕組みだけの表面をコピーしても、自社の現場マネージャーにそれを運用するだけの求心力がなければ、制度は一瞬で形骸化します。
③ 「成功」の裏にある、語られないプロセスの欠落
お酒の席や短い会合の場で語られるのは、成功した「結果」という氷山の一角だけです。その裏で、その会社が何ヶ月もかけて何度も社員と面談を繰り返し、どれほどの摩擦を乗り越えて定着させたかという「プロセス」は、往々にして省略されて伝わります。
2. 士業(税理士・社労士)への相談でも解決しない理由
「では、プロに聞けばいいのか」と、顧問の税理士や社労士に相談する社長も少なくありません。しかし、ここにも別の限界が存在します。
- 税理士の先生は「数字(財務)」のプロ:「報酬の枠を変えますか?」という提案になりがち
- 社労士の先生は「法律(労務)」のプロ:「就業規則に項目を追加しましょう」というルールの箱づくりになりがち
彼らは法律や数字という視点で「仕組み」は整えてくれますが、その箱の中で起きている「生身の社員の感情のねじれ」や「評価への不納得感」をほぐすプロではないのです。
3. 【解決の糸口】100社あれば、100通りの「処方箋」がある
人が辞めない、そして自走する組織を作るために必要なのは、世間の成功法則や他社の真似ではなく、「いま、目の前にいる自社の社員が何に悩み、何に期待しているか」を正しく分解することです。
自社に合う「仕組み」を見極める3つのチェックポイント
- 経営者の「理念」の言語化:社長の頭の中にある「求める人物像」や「評価基準」「会社として大切な思想」をクリアな言葉にしているか
- 現場への「浸透・研修」:評価シートを配るだけでなく、管理職が「部下の本音を引き出す面談」ができる状態を作っているか
- 運用と定着の伴走:制度を入れた後の人間関係の摩擦に、経営陣と管理職が一緒になって向き合っているか
よくある質問(FAQ)
A:企業ごとに「業界」「職種」「社員の気質」「社長のキャラクター」が異なるためです。ある会社で効果のあったインセンティブやコミュニケーション施策が、別の会社では不信感や離職の引き金になるなど、前提条件が違う仕組みを表面だけコピーしても機能しません。
A:世間の成功法則を追うのではなく、自社の経営理念や社長が求める基準を「評価制度」として明確に言語化し、それを現場の管理職が正しく運用(面談・育成)できるよう、教育と運用伴走をセットで行うことが最優先です。
組織の「隠れ空中分解」危険度チェックシート
社長が、今すぐ自社の『空気』を確かめる10の質問
- 1. 社長が会社に入ってきたとき、挨拶は交わされるが、どことなく全体の空気が緊張する、または不自然に静かになる
- 2. 会議で「何か意見はあるか?」と聞くと、社員全員が下を向くか、当たり障りのない発言しか出てこない、いつも社長の独演会で終わる
- 3. 「営業部門と製造(現場)部門」など、部署間で責任のなすりつけ合いや、「あっちのせいで」という愚痴が社長の耳に届く
- 4. 期待している幹部やマネージャーが部下の育成や注意を嫌がり、「嫌われ役」をすべて社長に押し付けてくる
- 5. 「社長、最近変わりましたね」「昔はもっとアットホームだったのに」という言葉が、古株の社員や現場から漏れ聞こえる
- 6. 給与水準や就業規則と整えて、福利厚生を他社並みに整えたはずなのに、社員の「やる気」が上がっている実感が全くない
- 7. エース級の優秀な若手社員が、何の前触れもなく突然「すみません、来月で辞めます」と退職届を出してきたことがある(退職代行を含む)
- 8. 幹部候補として目をかけている社員が、一向に「経営者目線」を持ってくれず、指示待ちの状態が続いている
- 9. 社長がいないところで、特定の社員やグループがコソコソと話し込んでおり、どことなく社内に不穏な空気を感じる
- 10. 社長自身が「これ以上、社員の人間関係のドロドロに巻き込まれたくない」「会社に行くのが少し億劫だ」と感じたことがある
あなたの組織の危険度レベル(採点結果)
当てはまるチェックの合計数から、現在の組織の状態を確認してください。
◆ チェックが1〜3個:【レベル1:黄色信号】
組織の「壁」に差し掛かり、社長のカリスマだけでは目が行き届かなくなっています。手遅れになる前に、ブラックボックスや形骸化している人事ポリシーや評価基準の言語化が必要です。
◆ チェックが4〜7個:【レベル2:危険信号】
他社の真似をして飲み会を開いたり、形だけの評価シートを配ったりしても火に油を注ぎます。社長の想いを現場に翻訳して伝える、現場マネージャーの意識改革と動機づけが急務です。
◆ チェックが8個以上:【レベル3:緊急事態】
組織が完全に空中分解の一歩手前にあります。法律や数字のルール(社労士・税理士の領域)をいじる段階ではなく、経営陣と現場の「ねじれ」を根本から根気強く紐解く必要があります。
まとめ:社長、もう一人で孤独に悩むのはやめませんか?
他社の真似をして飲み会を開いても、ホワイトな就業規則を作っても現場が変わらなかったのは、社長の熱意が足りないからではありません。アプローチの順番が違っていただけです。
株式会社ヒューマンソリューションは、一般論やパッケージ化されたシステムを押し付けません。社長が誰にも言えずに抱えてきた、「幹部の意識の低さ」「部門間の確執」といった、御社だけにしかない生々しい人間関係の糸口を、現場に入り込んで1本ずつ紐解く人事のプロです。
「士業にも経営者仲間にも相談したけれど、解決の糸口が見えない」
そう感じたときは、ぜひ一度、御社の状況をそのまま私たちにお聞かせください。
次回予告 6月5日(金)
評価制度を作っても会社が良くならない理由とは?(Vol.26)
この記事の著者
葆東雅仁(ほうとう まさひと)
株式会社ヒューマンソリューション 代表取締役
HR・人材領域に24年携わる人事コンサルタント。栃木県を中心に中小企業の採用・評価・育成を一体で支援。
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