大安吉日人事のコラムCOLUMN

2026年05月24日 評価制度・給与・賞与

評価制度は「企業の背骨」| 経営計画を絵に描いた餅にしない、経営と人事の完全リンク術(Vol.24)

皆様、こんにちは。ヒューマンソリューション代表の葆東です。

5月も下旬に入り、宇都宮の爽やかな風のなかに、ほんのりと初夏の力強い日差しを感じる季節になりました。街を行き交う人々の服装も軽やかになり、新しい季節のエネルギーを肌で感じる今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて、本日の掲載日である5月24日は、暦の上で大変縁起の良い「大安」です。「大いに安し」という意味を持つこの日は、すべてのことがスムーズに運び、成功へと繋がる吉日とされています。日曜日の穏やかな朝、この大安という良き日に、これからの会社の成長を後押しするような「前向きな組織の仕掛け」について、地元の経営者の皆様、人事責任者の皆様と一緒に、少し深く考えてみたいと思います。

本日お届けするテーマは、組織づくりの根幹、「評価制度」についてです。

 

1. 多くの企業が陥る「給与査定ツール」の罠

突然ですが、皆様は自社の評価制度をどのような存在として捉えているでしょうか。 「年に数回、給与やボーナスを決めるために、上司も部下も渋々向き合う査定ツール」 もし、そんな状態になってしまっているとしたら、それは非常に勿体ないことですし、組織にとって危険な兆候であると言わざるを得ません。

多くの現場で、評価面談の時期になると「また面倒な書類を書く季節がきた」「上司の主観でどうせ決まるのに、目標設定をする意味があるのか」といった不満の声が上がります。マネージャー陣からも「日常の業務が忙しいのに、評価のシートを埋めるだけで膨大な時間が取られてしまう」と悲鳴が上がることが珍しくありません。

なぜ、これほどまでに評価制度は嫌われ、形骸化しやすいのでしょうか。

その理由は明確です。評価制度が「過去の粗探し」や「給与を下げるための言い訳(あるいは原資を分配するための辻褄合わせ)」に使われてしまっているからです。本来、評価制度とは「社員の未来の成長を支援し、会社の目指す方向に導くための羅針盤」であるべきです。しかし、多くの企業では、単なる「事務手続きのインフラ」に成り下がってしまっています。

 

2. 『freee』の組織づくりに学ぶ「企業の背骨」という思想

先日、わずか創業10年ほどで2,000人規模へと爆速で急成長を遂げた上場企業、freee株式会社の組織づくりに関する書籍(『freee 成長しまくる組織のつくりかた』川西康之 著)を読んでいて、私の胸に深く突き刺さり、猛烈に共感した言葉がありました。

著者の川西さんは、その本の中でこう言い切っています。

『評価制度は、企業の背骨である』

人間の身体を想像してみてください。どんなに強い筋肉(優秀な人材)や、優れた頭脳(革新的なビジネスモデル)を持っていたとしても、それを支える「背骨」が歪んでいたり、弱かったりしたら、まともに立つことも、前に進むこともできません。組織における「背骨」こそが、まさに評価制度なのです。

組織が成長し拠点が増え、メンバーが増えれば増えるほど、それぞれの価値観やバックグラウンド、目指す方向は少しずつバラバラになりがちです。 「会社の売上さえ上がれば、チームの和を乱してもいいのか」 「新しいことに挑戦して失敗した人と、既存の業務を無難にこなした人、どちらを評価すべきなのか」

こうした迷いが現場に生じたとき、会社が「私たちは何を大切にし、どういう行動を評価するのか」を明確に示すもの、それが評価制度です。どれだけ組織が拡大し、多様な人材が集まっても、決してブレない強固な「背骨」が通っていれば、経営を人事がつながっていれば組織は崩壊することなく、同じ方向を向いて突き進むことができるのです。

さらにfreeeの事例で興味深いのは、評価の軸として「インパクト(社会やユーザーに届けた価値)」だけでなく、「たけのこ力」という独自の指標を設けている点です。たけのこのように、自律的にぐんぐん周囲を巻き込んで成長していく力そのものを評価する。つまり、「現在の成果」だけでなく、「未来の成長可能性」をも背骨の一部として組み込んでいるのです。

 

3. 経営計画と人事が切り離された「絵に描いた餅」の正体

この「背骨」をさらに強く、機能するものにするために、私たち経営者が絶対に目を背けてはならない、より本質的な課題があります。それが、「経営計画と人事制度(評価制度)を完全にリンクさせる」ということです。

多くの企業が、毎期、あるいは中期経営計画として、素晴らしいビジョンや目標を掲げます。経営理念や行動指針を朝礼で唱和している中小企業も少なくありません。社長が 「今年は、栃木県内でのシェアを拡大するために、新規事業に果敢に挑戦しよう!」 「これからはDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、業務効率を劇的に向上させよう!」 「顧客満足度を第一に考え、質の高いサービスを提供しよう!」と熱く語っているでしょう。

しかし、悲しいかな、これらの立派なスローガンが「絵に描いた餅」に終わり、現場に全く浸透しないケースが後を絶ちません。なぜでしょうか。社長の発信力が足りないからでしょうか。社員のモチベーションが低いからでしょうか。

いいえ、違います。最大の原因は、「経営計画のゴールと、現場の評価制度が完全に切り離されている(矛盾している)」ことにあります。

具体的な例を挙げてみましょう。

ある企業が、年頭の経営方針・経営計画で「今年はイノベーションの年だ。失敗を恐れず、全員が新しい提案や新規事業に果敢に挑戦してほしい」と大々的に打ち出したとします。 ところが、実際の評価制度を見てみると、昔ながらの「ミスをしないことが美徳とされる減点方式」のままで、評価基準には「既存業務の確実な遂行」しか書かれていません。

この状況で、社員はどう動くでしょうか。 答えは明白です。誰も新しい挑戦などしません。なぜなら、新しいことを始めて失敗すれば成果にならず評価が下がり、ボーナスが減るリスクがあるからです。人間は、自分の「評価(=生存戦略)」に直結する仕組みに従って動く生き物です。経営者がいくら口頭で「挑戦しろ」と言っても、評価制度が「現状維持」を求めているのであれば、社員は現状維持を選びます。これは社員が怠慢なのではなく、仕組みに対してあまりにも合理的に判断した結果なのです。

他にも、経営計画では「チームワークと協調性が我が社の強みだ」と言いながら、評価制度が「個人の営業数字のみを競わせるインセンティブ制」になっていれば、当然ながら個人プレーが横行し、ノウハウの共有は行われなくなります。

経営計画(進みたい方向)と、人事制度(社員の背中を押す仕掛け)が、1本の美しい軸でつながっていない状態。これこそが、組織の成長を止める最大のブレーキなのです。

 

4. 経営と人財マネジメントを統合する「無矛盾な組織」への3ステップ

では、どのようにして経営計画と評価制度を「完全リンク」させ、ブレない背骨を作ればよいのでしょうか。私たちは、以下の3つのステップが不可欠であると考えています。

 

ステップ①:経営計画のキーワードを「行動特性(コンピテンシー)」に翻訳する

経営計画に書かれている言葉は、往々にして現場にとっては抽象的です。「顧客第一」や「果敢な挑戦」という言葉を、現場の社員が「明日から具体的にどう行動すればいいのか」が分かるレベルまで、具体的な行動特性(コンピテンシー)に翻訳する必要があります。 例えば、「果敢な挑戦」であれば、「期初に設定した目標にとどまらず、自ら120%の難易度の課題を設定し、周囲を巻き込んで実行に移したか」といったように、評価基準の言語化を行うのです。

 

ステップ②:評価軸と報酬(等級)の「無矛盾な状態」をつくる

freeeの組織づくりでも強調されているのが、この「無矛盾」というキーワードです。経営計画、採用基準、評価基準、そして給与(報酬)の仕組みが、すべて一本のストーリーで繋がっていなければなりません。「この行動を積み重ねていけば、経営計画が達成され、それと同時に自分の等級が上がり、給与も増える」という、会社と個人のウィン・ウィンの関係を、制度のデザインによって証明するのです。

 

ステップ③:ブラックボックスを排除する「キャリブレーション(すり合わせ)」の導入

いくら立派な基準を作っても、実際の運用で「上司の好き嫌い」が介入しては背骨が曲がってしまいます。そこで重要なのが、複数のマネージャーや経営陣が一堂に会し、全社員の評価をオープンにすり合わせる「キャリブレーション(評価調整会議)」です。「A君の今期の行動は、本当に我が社の掲げる『挑戦』に値したか?」を基準に照らし合わせて徹底的に議論します。これによって評価の公平性が保たれ、社員の「納得感」は劇的に向上します。納得感があるからこそ、社員は次期に向けてまた前を向けるのです。

 

5. 評価制度が変わるとき、組織に起こる「奇跡」

経営計画と人事制度がガチッと噛み合ったとき、組織には驚くべき変化(あるいは奇跡とも呼べる自走のドラマ)が起こり始めます。

まず、社員の「迷い」がなくなります。「これを頑張れば、会社も喜び、自分も正当に評価される」という確信が持てるため、上司の顔色を伺うような不毛なエネルギーの浪費が一切なくなります。結果として、現場からの自発的な提案や、経営計画を前倒しで達成するような爆発的なパフォーマンスが生まれやすくなるのです。

さらに、これは「市場価値の高い人材」を育てることにも直結します。会社の経営計画を達成できる人材=どこに行っても通用する、芯の通った強いビジネスパーソンです。社員は、この会社で働くこと自体が、自分のビジネスパーソンとしての成長(市場価値の向上)につながっていると実感できるようになります。そうなれば、当然ながらエンゲージメントは高まり、優秀な人材の離職率は劇的に低下します。

評価制度は、単なる管理のための道具ではありません。経営者の「想い」と「戦略」を、全社員の「日々の行動」へと変換するための、最も強力なマネジメントレバー(仕掛け)なのです。

 

栃木の企業をもっと熱く、もっと強く、おもしろく

私たちヒューマンソリューションは、ここ栃木の地で、地元の経営者の皆様と共に、綺麗事ではない泥臭い組織づくり、人財採用、そして制度設計に全力で向き合ってきました。

地域の歴史ある企業様、あるいはこれから一歩を踏み出すベンチャー企業様、それぞれに固有の素晴らしいカルチャーと、熱い経営計画があるはずです。その大切な計画を「絵に描いた餅」で終わらせないために。そして、これから2倍、3倍へと組織を拡大していくための強固な土台を作るために。

まずは、今一度、自社の「背骨」である評価制度を見直してみませんか?もし評価基準が社長の脳内にあるなら、脳内にしかないなら、ちゃんと制度に落とし込み、可視化しませんか? 経営と人事が美しい「矛盾なき状態」になったとき、組織は経営者の想像を超えるスピードで自走し始めます。

すべてのことがスムーズに運ぶ、この最良の「大安」の日に、未来の組織に向けた小さな、しかし確実な一歩をぜひ検討してみてください。

栃木の企業の未来を、もっと熱く、もっと強く。皆様の挑戦を支える人事の伴走者として、私たちヒューマンソリューションも、これからも全力で応援し、共に歩み続けます。

組織や評価制度に関する小さなお悩みでも、いつでもお気軽に葆東までお聞かせください。共に、ブレない「最強の背骨」を創り上げていきましょう。

 


次回予告 5月30日(土)

令和の働き方改革、AIと外部の知恵で人事業務に革命が起こる(Vol.25)


葆東雅仁

この記事の著者

葆東雅仁(ほうとう まさひと)

株式会社ヒューマンソリューション 代表取締役

HR・人材領域に24年携わる人事コンサルタント。栃木県を中心に中小企業の採用・評価・育成を一体で支援。