2026年02月27日 労務・制度・法令対応
気づかないうちに法律違反?中小企業の人事で起こりやすい労務リスクと防ぎ方(Vol.9)
本日は大安ですが、新しい事を始めるのには向かないとされる「不成就日」が重なっております。大きな決断をあえて避ける経営者様もいらっしゃるかもしれませんが、こういう日こそ「現状の人事課題を洗い出す」「プロに相談して足場を固める」という、守りの時間にあてるのが大正解です。来月からの新しいスタートに向けて、本日もヒューマンソリューションが人事のヒントをお届けします。
「うちはブラック企業じゃないから大丈夫」
そう思っている会社ほど、実は気づかないうちに法律違反の状態に入り込んでいることがあります。
中小企業の人事や労務の現場では、最初から違反しようとしているわけではありません。むしろ多くは、現場が忙しい、昔からこのやり方でやってきた、人数が少ないから柔軟に回している、という“善意の運用”の中で起こります。
ただ、法律は「悪気がなかった」で済まない場面があります。だからこそ大切なのは、完璧を目指すことではなく、どこにリスクが潜みやすいのかを知り、先回りして整えることです。
中小企業で「気づかないうちに法律違反」が起きるのはなぜか
中小企業で法律違反が起きやすい理由は、法令知識が足りないからだけではありません。本当の原因は、人事労務の運用が現場の善意と慣習に任されやすいことにあります。
社長が現場も見ていて、管理職もプレイヤーを兼ねていて、総務担当も採用や勤怠や給与のことをまとめて抱えている。こういう会社は珍しくありません。だからこそ、一つひとつの判断が「とりあえず今はこれで」で積み重なりやすくなります。
その積み重ねが、ある日突然、労基署対応、社員トラブル、退職時の揉めごと、残業代請求という形で表面化します。怖いのは、問題が起きるまで社内では“普通の運用”に見えていることです。
中小企業で起こりやすい法律違反の典型例
実際の現場では、派手な違反よりも、日々の運用の中にある小さな見落としの方が多く見られます。
そして、その見落としほど長く放置されやすいのです。
よくある労務リスク1 労働条件の伝え方があいまいになっている
入社時に、雇用条件を口頭でなんとなく説明して終わっている。
あるいは、雇用契約書や労働条件通知書はあるものの、実際の仕事内容や配置転換の可能性、更新条件などが十分に整理されていない。
こうした状態は、後々のトラブルにつながりやすくなります。
特に2024年4月からは、労働条件明示のルールが改正され、すべての労働者に対して「就業場所・業務の変更の範囲」などの追加明示が必要になっています。有期契約労働者については、更新上限や無期転換申込機会に関する明示も重要なポイントです。
現場感で言えば、ここは「書類の問題」ではありません。入社時の条件があいまいだと、会社は“そんなつもりじゃなかった”、社員は“聞いていた話と違う”となります。そのズレが、不信感の始まりになります。
よくある労務リスク2 36協定があるだけで安心している
「36協定は出してあるから大丈夫です」
これは現場でよく聞く言葉ですが、実はここに落とし穴があります。
36協定は、残業や休日労働をさせるための前提にはなりますが、出していれば何時間でも残業させてよい というものではありません。
時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間で、特別条項付き36協定がある場合でも、年720時間以内、休日労働を含む複数月平均80時間以内、休日労働を含む月100時間未満などの上限があります。
現場では、繁忙期になると「今月だけは仕方ない」が起きます。でも、その“今月だけ”が何度も続くと、管理上はかなり危うい状態になります。しかも怖いのは、残業を命じている側より、黙って頑張っている社員の方が実態を正確に持っていることです。
よくある労務リスク3 年5日の有給取得義務が運用で抜ける
有給休暇についても、「本人が取りたいと言わないから」「忙しいから後で」という運用が残っている会社は少なくありません。しかし、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、使用者が年5日を確実に取得させる義務があります。本人任せにして取得できていない場合、会社側の管理責任が問われます。
さらに、時季指定を行う場合には就業規則への記載、年次有給休暇管理簿の作成・保存も必要です。ここも現場では「有給は自由に取っていいよと言っているから大丈夫」と思われがちですが、それだけでは足りないことがあります。
よくある労務リスク4 昔からの慣習がそのまま残っている
法律違反が起きやすい会社には、必ずしも悪意があるわけではありません。むしろ多いのは、「昔からそうしてきた」「前の担当者からこう引き継いだ」というケースです。
たとえば、
- 早出や持ち帰り仕事が勤怠に乗っていない
- 管理職にした瞬間に残業代の議論が止まる
- 試用期間だから細かい説明は後回しになっている
- パートや有期社員は正社員ほど丁寧に契約管理していない
こうした運用は、社内では普通に見えても、外から見ればリスクになります。そして、一度社員との関係がこじれると、過去の運用まで一気に掘り返されることがあります。
なぜ中小企業ほど労務リスクが大きくなりやすいのか
中小企業では、一人の社員の存在が大きい分、問題が起きたときの影響も大きくなります。大企業なら吸収できる問題でも、中小企業では現場の空気、採用、定着、管理職の負担にまで波及します。
特に怖いのは、法律違反そのものよりも、その後に起こる二次被害です。
- 社員の会社に対する不信感
- 退職者からの請求や申告
- 採用市場での評判悪化
- 管理職が萎縮してマネジメントできなくなる
- 経営者が現場対応に追われる
つまり、労務リスクは単なる法務の問題ではなく、組織の信頼を崩す経営課題なのです。
気づかない法律違反を防ぐために中小企業がやるべきこと
ここで大切なのは、「全部を一気に完璧にする」ことではありません。現実には、まず事故が起きやすいポイントから順番に整えることの方が効果的です。
まず見直したい3つのポイント
1. 入社時の書類と説明を整える
採用したら終わりではなく、入社時の条件明示をきちんと整えることが必要です。
特に確認したいのは、次のような点です。
- 労働条件通知書や雇用契約書の内容が最新ルールに合っているか
- 就業場所や業務内容の変更範囲が明示されているか
- 有期契約の場合、更新条件や更新上限が整理されているか
- 実際の運用と書類の内容がずれていないか
ここが曖昧だと、後で説明しても通りにくくなります。だからこそ、最初の段階で“伝わる形で整える”ことが重要です。
2. 残業時間を「結果」ではなく「途中」で管理する
残業問題は、月末に集計してから気づくのでは遅いことがあります。大事なのは、超えた後に確認することではなく、超えそうな段階で止めることです。
そのためには、
- 36協定の内容を管理職が理解しているか
- 月中で残業時間を把握できているか
- 特定の人に負荷が偏っていないか
- 休日労働も含めて見ているか
を確認する必要があります。
残業は、現場の頑張りに見える一方で、管理の甘さが一番出やすい領域です。
だからこそ、数字を“見える化”しておくことが欠かせません。
3. 有給休暇を本人任せにしない
有給休暇は、制度として存在していても、実際に取得できていなければ意味がありません。特に年5日の取得義務は、会社がきちんと運用を設計して初めて守れるものです。
現場では、「忙しいから後で」「本人が遠慮している」「管理職が声をかけていない」といった理由で、気づけば未取得が積み上がります。この状態を防ぐには、基準日管理、取得状況の見える化、計画的な声かけが必要です。つまり、有給も“制度がある”だけではなく、“回る仕組み”にしなければいけません。
現場で本当に大切なのは「法律を知ること」より「運用を整えること」
本当に大事なのは、
- どこでズレが起きやすいかを知る
- 誰が見ても同じ運用になるようにする
- 現場任せにしない
- 問題が小さいうちに直す
この4つです。
つまり、労務管理は「法務」だけの仕事ではなく、人が安心して働ける状態をつくる組織運営そのものです。ここを軽く見ると、採用にも定着にも必ず跳ね返ってきます。
中小企業向け 労務リスクのチェックリスト
自社の運用を点検するなら、まずは次の項目を確認してみてください。
- 労働条件通知書や雇用契約書が最新のルールに沿っている
- 入社時に仕事内容や異動の可能性を明確に伝えている
- 36協定の内容を管理職が理解している
- 残業時間を月末ではなく月中にも確認している
- 年5日の有給取得状況を個人別に把握している
- 年次有給休暇管理簿を整備している
- 就業規則と現場運用にズレがない
- 「昔からこのやり方」で残っている運用を見直している
- トラブルが起きたときに相談できる専門家がいる
一つでも曖昧なら、そこが将来の火種になる可能性があります。
よくある質問
うちは小さい会社なので、そこまで厳しく見られませんよね
そう考えてしまう気持ちはよく分かります。ただ、法令は会社の規模にかかわらず適用されるものがありますし、問題が起きたときは「小さい会社だから」は免罪符になりません。むしろ中小企業は、一件のトラブルが現場や採用に与える影響が大きい分、早めの整備が重要です。
社労士にお願いしていれば大丈夫ですか
社労士との連携は非常に重要です。ただし、現場の実際の運用まで自動的に整うわけではありません。
書類上は正しくても、現場での説明、勤怠管理、面談、休暇取得の運用がずれていれば、リスクは残ります。
36協定を出していれば残業の問題はありませんか
ありません。
36協定は前提条件の一つですが、上限管理や実態把握までできていなければ不十分です。
特に繁忙期は、「今月だけ」が重なりやすいため注意が必要です。厚生労働省 働き方改革特設サイト
まず最初に何から手をつけるべきですか
最初は、入社時書類、残業管理、有給管理の3つです。この3領域は、現場で見落としが起きやすく、しかも後から問題化しやすいからです。全部を一気に変えるより、事故が起きやすい順に整える方が現実的です。
まとめ
中小企業で起きる法律違反の多くは、悪意ではなく、忙しさと慣習の中で生まれます。
だからこそ怖いのです。誰も違反しているつもりがないまま、会社の中では“普通の運用”として続いてしまうからです。
しかし、だからといって放置してよいわけではありません。労働条件の明示、残業時間の管理、有給休暇の取得管理。こうした基本的な部分を整えるだけでも、労務リスクは大きく減らせます。
【次回予告】3月5日(木)
若手定着の鍵!中小企業が見直すべき「オンボーディング(受け入れ体制)」の仕組み(Vol.10)
この記事の著者
葆東雅仁(ほうとう まさひと)
株式会社ヒューマンソリューション 代表取締役
HR・人材領域に24年携わる人事コンサルタント。栃木県を中心に中小企業の採用・評価・育成を一体で支援。
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